セカンドハウス

ペット 犬

さっきまで穏やかに寝ていたはずなのに、
なぜか犬たちは気配で気づく。

「それ、出すの?」

音は立てていない。
まだファスナーも開けていない。
なのに、振り向いたときにはもう目が合っている。

――完全に、バレている。


我が家には二匹のミニチュアダックスがいる。

ひとりは、慎重派。
もうひとりは、瞬発力のかたまり。

キャリーを出した瞬間、攻防が始まる。

慎重派はまず固まる。
抱っこを待つふりをしながら、空気を読む。
次の展開を予測しているのだろう。

一方、瞬発力タイプは速い。
目が合った次の瞬間には、低い姿勢でスッと移動する。
ソファの陰、テーブルの下、絶妙に手が届かないポジションへ。

こちらはまだ何も言っていないのに。


不思議なのは、「楽しいお出かけ」のときも
「ちょっと緊張する場所」へ行くときも、
キャリーという存在だけで警戒モードになること。

過去の記憶は、ちゃんと蓄積されている。

病院の匂い。
知らない場所の床の感触。
待合室の静かなざわめき。

それでも毎回、こちらは思う。

「今日はすぐ終わるよ」
「大丈夫だよ」

言葉は通じなくても、
声のトーンや手のぬくもりは伝わっているはずだと信じたい。


最終的には、こちらの勝ちになる。

けれどそれは力で押さえつける勝利ではない。

ゆっくり撫でて、
落ち着いた声で名前を呼び、
そっと抱き上げる。

小さな体は、ほんの少しだけ力を抜く。

諦めたのか、
信じたのか。

そのどちらも、きっと少しずつ混ざっている。


キャリーはただの箱だ。
でも、その中には「一緒に移動する時間」が詰まっている。

怖い場所へ行くときも、
嬉しい場所へ行くときも、
結局は同じ方向を向いている。

攻防は毎回ある。
逃走もする。
捕獲もする。

それでも、ドアを閉めたあと
中から聞こえる小さな鼻息に、

「ちゃんとそばにいるよ」

と、こちらも心の中で返事をする。

次にキャリーを出す日も、
きっとまた攻防は始まる。

それも含めて、愛しい日常なのだ。

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